kta-basket's blog

バスケット好きによるなにか

JJが「女性版KD」と呼ばれモヤった件について考える

2022年2月に大阪にて今夏オーストラリアにて開催されるFIBA Women's Basketball World Cupの最終予選がありました。 出場国は日本、カナダ、ボスニアヘルツェゴヴィナベラルーシの4ヶ国でこのうち3ヶ国が出場権を得る、という大会です。

ベラルーシが選手にコロナ陽性者が出てしまい出場辞退したため、残りの3国は試合さえ実施できれば出場権が得られる状況で、日本は10日にカナダと、13日にボスニアヘルツェゴビナと対戦しました。

これらの試合はフジテレビNEXTとバスケットliveにて中継され、それぞれ実況解説がついていたわけですが、13日の試合をバスケットliveで実況していた松本さんがボスニアヘルツェゴビナのエース、ジョンクエル・ジョーンズ選手(以降JJ)のことを「女性版KD」と称しました。

このことに私および周囲の女子バスケファンがモヤっていたため、物事を整理してみたいと思います。

そもそもJJとKDって誰

JJ

昨年度WNBAMVP!だけでも十分すごい選手だと伝わるかと思いますが、バハマ生まれの28歳で、14歳で渡米し、渡邉雄太と同じジョージ・ワシントン大卒、WNBAユーロリーグでプレーしており、ユーロリーグでプレーするのに有利なためボスニアヘルツェゴビナ国籍を取得して2019年からボスニアヘルツェゴビナ代表にも加わっています。

198㎝と高身長ながら柔らかいシュートタッチを持ち、WNBAオールスターでは3Pコンテストで決勝にも残りました。リバウンドも非常に強く、3度のリーダーに輝いている上にシーズンの平均リバウンド記録も持っています。

KD

NBAファンで知らない人はいないでしょうが、ケビン・デュラント選手のことです。2014年にMVPを受賞し、2017年と2018年にはウォリアーズの一員としてNBA連覇してファイナルMVPも受賞しています。208cm(実際はもっと高いという噂も)の身長、225㎝のウイングスパンとSFとしては規格外の長さを持ち、なおかつシュートが非常に上手いため、NBA史上最高の得点能力の持ち主という声もあります。得点王には4度輝いています。

※私はOKCファンのため私情により彼への評価は下方修正されがちなことを念頭に置いておいてください

誰かを誰かに例えるという行為について

「〇〇界の〇〇」スポーツ界に限らずよく見られる行為ですね。「ポスト〇〇」も近いニュアンスかと思います。

例えることがプラスに働くケース

その選手を知らない人に対し、その人が知っている別の人物で説明する

これが本来の正しい「例え」の利用方法かと思います。

NBAファンでオリンピックで女子バスケに興味を持った人に対し、「三好南穂はWリーグのJJ・レディック」や「篠崎澪はCJ・マッカラム」(※個人の見解です)と紹介することによってその選手に興味を持ったり、実際に試合を観て「なるほどたしかに」やら「むしろ〇〇じゃない?」やら言う内にその選手を覚えるでしょう。とっかかりとして非常にリーズナブルで、楽しめるきっかけになります。

例えることがプラスとは言えないケース

大胆に言ってしまえば上記以外は例えるということがプラスに働くことはほぼないのではないでしょうか。

「ポスト〇〇」もそうですが、過去の素晴らしい選手に例えられるケースは散見されます。例えられた側の選手はもちろん偉大な選手と引き合いに出され嬉しい気持ちはあるでしょうが、例える行為と比較する行為は紙一重なので、嫌う人も少なくないでしょう。NBAでは素晴らしい選手が出るたびにマイケル・ジョーダンと比較されてきましたが、時代も環境も異なる中での比較など意味はありません。結局のところジョーダンは素晴らしい選手で、コービーも素晴らしい選手、といったように個人に着目して偉大さを称えれば良いわけです。

期待の若手に対して「未来の〇〇」といった表現もグレーです。本人が「〇〇選手みたいになりたいです!」と言っているならまだよいのかもしれませんが、勝手に周りが言うのはアウトかなと。

今回の「女性版KD」について

例えることがプラスに働いているか

誰にとっての例えか?

例えることがプラスに働くケースかを考えてみます。NBA選手のKDに例えているわけですから、NBAクラスタ向けと考えられます。東京オリンピックでMVPも受賞していますが、日本男子が予選で敗退した中決勝まで見てMVPまで認識している人はそう多くないのではと思います。 バスケットliveでの配信であるので、普段Bリーグを観ていてオリンピックで興味を持ち女子を観始めた、という視聴者層は一定数いると期待したいですが、KDがどの程度認知されているかは不明です。まあバスケが好きな層なので決勝まで見たと想定してもいいのかな。

例えることでJJへの興味が増すか?

試合前からWNBAのMVPでボスニア・ヘルツェゴヴィナのエースとして取り上げられており、試合を観ていても圧倒的な存在感を持つJJに対し、KDに例えることでさらに注目してみよう、とはならないのでは、というのが私の意見です。

例えとして適当か

個人的に気になったのはこちらの方です。

プレースタイル

そもそもプレースタイルがかなり違うのですよね。KDは身長は高いもののアウトサイドメインでスリーとドライブとミドルジャンパーで得点を量産するタイプ、JJはインサイドプレイヤーでありながらスリーポイントも得意とするタイプ、とまあシュートが上手い点は共通していますが、アウトサイド軸かインサイド軸かの時点で異なるわけです。JJはリバウンド王にも輝いていますし。 今回KDに例えたのは柔らかいシュートフォームが似ているからなのかなと思います。

ちなみに以前私はWNBA選手をNBA選手で例えた際にはジョエル・エンビードに例えました。

プレースタイル以外

同じバスケットボール選手として例えるならば、プレースタイルから似ているポイントを探して例えることができますが、別業界(サッカー選手など)で例える際は生い立ちやメンタリティで考えるのかなと思います。

生い立ちは先に書いたようにバハマ出身でありながらバスケットボール選手として生きていくために国籍を変えたJJと(母子家庭で苦労はあったでしょうが)アメリカ出身のKDではかなり異なるように思います。WNBAのシーズンが男子同等の試合数でサラリーがもっと高ければユーロリーグに行く必要もなく国籍も変えなかったかもしれません。

メンタリティは信じられない移籍やらTwitter裏垢問題やらよろしくない話題の枚挙に暇がないKDとWNBAのスターとして女性の地位向上へ意見を発信するJJを比較するなんて許せません。※大いに私情を含んでいます

そもそも生い立ちやメンタリティはかなり詳しい人でないと知り得ないので、誰もが人生や人柄を知っている超有名人以外では使いにくい気がします。

つまるところ

今回の例えはあまり適当とは思えません。「シュートフォームが似ていますね」くらいなら良いし知っている人にとっては「確かに似ているかも?」と面白く感じられるかと思いますが、それだけで「女性版KD」と言うのはオーバーだし、シュートを打つ度に「KDですね~」と言うのはJJに失礼です。

”女性版”という表現について

ここまで敢えて言及していませんでしたが、今回の例え方で最も相応しくなかったのは”女性版”と称した点です。誰かに例える行為そのものもセンシティブですが、ジェンダー平等の観点で見ても非常に危ういものです。ジェンダー平等について考える際には”男女を入れ替えても違和感がないか?”です。「男性版〇〇」という表現を耳にしたことがありますか?いま「男性版」を検索したら検索結果の1ページ目は全て「男性版産休」の話、「女性版」を検索すると複数の話題が入り混じることからも「女性版」の方が使用頻度が高いとわかります。これは基本が男性であり、女性が副次的なポジションに置かれるケースが多いとも言えます。産休は女性が基本であるために「男性版」と言われるわけです。

アメリカでは昨今女子スポーツの地位向上へのアクションが増えており、NBAドラフトのCMがずっと女性スポーツに関するものだったり、WNBA開幕日にNBA選手がWNBAのフーディを着てアピールしたりしています。もちろんリーグ規模や認知度がNBAの方が桁違いに高いのは承知していますが、WNBA選手をNBA選手に例える際に「女性版」という表現を使うのはこうした両リーグの努力も無下にしている気がします。

ちょうどロシア問題でアメリカ代表として東京オリンピックで日本を圧倒したWNBAのスター、ブリトニー・グライナーが麻薬保持疑惑でロシアに拘留されている件について「彼女がNBA選手だったらホワイトハウスが既に声明を出している。」というツイートを見かけ、考えさせられました。水面下で何かしらは動いているのでしょうが、良い報告を耳にしたいものです。

最後に

松本さんは以前から何度も女子バスケを実況しており、選手のこともバスケの戦術についてもよくご存じで素晴らしいなと思う反面、専門用語が多くやや内輪ノリになりすぎる点は気になっていました。初心者も経験者もどちらも観ている中での実況は難しいとは思いますが、今回はこの懸念の方が強く出たケースとなりました。また、女子スポーツを担当される上でジェンダー平等については配慮が欲しいと思います。